2013.06.06     カテゴリー : ⑩ 雑 記  ・雑 記

野鳥写真の来し方行く末

大橋氏が、2010年7月に講演された内容を、転載させて頂きますので、参考までにご一読ください。

夏鳥たちは繁殖地に移ってしまったので、自分も北海道へ再訪しようかと思いながら、大橋さんの
著作本「北海道野鳥観察ガイド」「鳥の名前」を読んだり、大橋さんのブログを見ていたら、この記事に
行きついた次第です。

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日本の野鳥写真の来し方行く末(こしかたゆくすえ)

大橋弘一さん(野鳥写真家)
IMG_0037.gif 

 みなさん、こんにちは。私が野鳥写真家として独立したのは、40歳を越えてからでした。でも、私には、子ども時代、それもかなり小さいころから、野鳥写真に非常に親しんで、それこそ穴が空くほど見たり読んだりしてきたという自負があります。以来およそ50年間、日本の野鳥写真がどんなふうな道を辿って発展してきたのか、きょうはそんな私の目を通して、ご紹介したいと思います。

 私の記憶にある初めての野鳥写真体験は、いわゆる子ども向けの学習図鑑です。親に買ってもらったのを、いつまでも飽きずに眺めていた覚えがあります。『学習図鑑シリーズ(4)鳥類の図鑑』(小学館、1956年刊行開始)といった「子ども百科」の類ですね。それから少し経って、小学4年ぐらいのころ、僕は鳥は鳥でも野鳥ではなくジュウシマツの飼育繁殖に没頭していたのですが、そんな時に新発行されてむさぼるように読んだのが、保育社の『原色日本鳥類図鑑』(1965年増補改訂版)。

 これらの図鑑の巻末に撮影者の名前があって、みんな肩書きが「日本野鳥の会会員」「日本鳥類連盟会員」となっていました。鳥好きの少年は、自分もいつかメンバーになりたいと、すごく憧れたものです(笑い)。ただ、当時の図鑑に掲載されていた野鳥写真は、そのほとんどが営巣写真でした。草むらやヤブの中で野鳥の巣を探して、近寄って標準レンズで撮影した、という作品ばかりです。

 ところが1979年、画期的な写真集が発表されます。嶋田忠さんの『カワセミ 清流に飛ぶ』(平凡社)。カメラのシャッターによって、高速飛翔している野鳥を止めて撮る、という当時としては全く新しい手法で撮影された作品です。野鳥写真界に新たな1ページが開かれた、といっても過言ではなかったと思います。

 同じ時期、日本野鳥の会から『フィールドガイド日本の野鳥』(高野伸二、1982年)、またしばらくして『検索入門「野鳥の図鑑」陸の鳥』(1)(2)、『水の鳥』(1)(2)(中村登流、保育社、1986年)という本が出ます。前者はイラスト、後者はカラー写真を使っていますが、当時のバードウォッチャーにとってこれらは必携書でした。今でも使っておられる方は多いでしょう。野外で楽しむバードウオッチングのブームがやってきたのです。

 さて、大学を出て東京で会社勤めをしていた私は1988年、転勤で初めて北海道・札幌にきました。36歳になっていましたが、せっかく北海道にきたのだからと自然散策に出かけて、初めて野生のノビタキを見つけたんです。それまでバードウオッチングもしたことがなかったのに、そのノビタキを手元にあったカメラで写してみたら、意外にいい写真が撮れてしまって(笑い)。その瞬間、私はこれから野鳥写真をライフワークにするんだ、と突然決意しちゃったんですね。その後すぐ、ほとんど衝動的に、ン十万円もする500ミリの超望遠レンズを購入していました(笑い)。でも今考えると、やっぱり幼いころから野鳥図鑑に親しんでいたからこそ、当時のあこがれを実現しようという気になったのかも知れません。

 ちょうどそのころ、東海大学出版会から「フィールドフォトテクニック」シリーズという、ネイチャーフォト撮影の教則本が刊行され出します。「水中写真」「植物写真」「昆虫写真」ときて、シリーズ第4巻が『野鳥写真マニュアル』(叶内拓哉、1989年)。さっそく購読して勉強しました。

西暦大橋氏の経歴印象深い野鳥の本出版社発行年
1954東京都に生まれる学習図鑑シリーズ(4)鳥類の図鑑小学館1956?
  科学ブック(9)のやまのとり世界文化社1959?
1960頃子ども向け図鑑に親しむ科学ブック(12)とりのくらし世界文化社1960
1965頃小鳥の飼育に熱中原色日本鳥類図鑑(小林桂助)保育社1965
1968初めてカメラを使う(鉄道)   
  カワセミ~清流に飛ぶ(嶋田忠)平凡社1979
  フィールドガイド日本の野鳥(高野伸二)日本野鳥の会1982
1988転勤により札幌へ移住検索入門野鳥の図鑑(中村登流)保育社1986
  鳥のいる風景(嶋田忠)平凡社1986
  鳥630図鑑日本鳥類保護連盟1988
  野鳥写真マニュアル(叶内拓哉)東海大学出版会1989
  日本の野鳥(竹下信雄)小学館1989
  鳥華抄(叶内拓哉)文一総合出版1989
1990ノビタキとの出会いチョウゲンボウ優しき猛禽(平野伸明)            平凡社1990
 500mmレンズ購入愛媛の野鳥観察ハンドブックはばたき日本野鳥の会・愛媛県支部1990
1991800mmレンズ購入鳥に会う旅(叶内拓哉)世界文化社1991
  鳥の組曲(吉野俊幸)山と渓谷社1991
  Sing! Sing! Birds!(和田剛一)山海堂1991
  朝日週刊百科動物たちの地球「鳥類I、II」全20巻朝日新聞社1991~92
  やませみのこそだて(林大作)偕成社1992
  かながわの鳥図鑑日本野鳥の会・神奈川支部1992
  ポケット図鑑野鳥(堀田明)成美堂出版1993
  地球博物館(3)鳥(石井照昭)PHP研究所1994
  Swing(吉沢隆司)青菁社1994
  山渓カラー名鑑日本の野鳥(高野伸二編)山と渓谷社1995
  北海道の野鳥(林大作) 平凡社1995
  日本動物大百科3、4鳥類(樋口広芳ほか)平凡社1996
  野鳥(真木広造)永岡書店1998
1999独立ヤマケイポケットガイド7野鳥(吉野俊幸)山と溪谷社1999
  山溪ハンディ図鑑7日本の野鳥(叶内拓哉)山と溪谷社1999
2000写真事務所ナチュラリー設立日本の野鳥590(真木広造・大西敏一)平凡社2000
  鳥鳴山河(大橋弘一)クレオ2000
2003自然雑誌faura創刊鳥の名前(大橋弘一)東京書籍2003
  北海道野鳥図鑑(河井大輔ほか)亜璃西社2003

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 1990年代の野鳥写真の金字塔は平野伸明『チョウゲンボウ 優しき猛禽』(平凡社、1990年)でしょう。単に生態を克明に捉えているというだけでなく、この写真集は、多数の写真作品をひじょうにうまく構成して、ひとつのストーリーが見事に表現されています。まさに最高峰の仕事で、この作品は、今も私のオールタイムベストです。

 翌1991年には奇しくも『鳥の組曲』(吉野俊幸、山と渓谷社)、『Sing! Sing! Birds!』(和田剛一、山海堂)という、新しいタイプの写真集が続けて発表されます。野鳥そのものに迫るだけでなく、周囲の環境全体を切り取って、その中に主役の野鳥を配する、という構図重視で作られた作品群です。機材が発達して高画質の撮影が可能になったことが背景にあったと思います。

 また1990年代は、社会の環境保護意識の高まりに合わせて、地域ごとに特色ある野鳥図鑑が相次いで刊行されています。

 そのひとつのゴール地点と言えるのが、『山溪ハンディ図鑑(7)日本の野鳥』(叶内拓哉、山と溪谷社)です。どんな状況でも判別可能なように、雄・雌の違い、幼鳥・若鳥・成鳥の差、姿勢ごとの見え方の違いを、1種ずつ写真で示したのです。

 かたや『日本の野鳥590』(真木広造・大西敏一、平凡社、2000年)は、国内で確認されたことのある全種を、真木さんがたった一人で撮影した労作です。ほとんど国内に飛んでこない「迷鳥」を、海外の生息地まで追いかけて撮影するという徹底的な仕事でした。

 図鑑の写真というと、アート系の写真家たちから、ともすればさげすまれがちな面もあるのですが、とんでもないことです。真木さんのこの図鑑を、私は最初から最後まで1ページずつ読まずにいられませんでした。そして、途中で何度も鳥肌が立ちました。図鑑にも、読者を感動させる力があるんです。

 さて、1999年に会社を退職して野鳥写真家として独立した私の最初の著書は写真集『鳥鳴山河』(クレオ、1999年)でした。これは叙情派路線の作品集であり、写真家としてはこういう路線の写真集でデビューすることは当然の成り行きでした。それから10年間、仕事としてひたすら野鳥写真に取り組みながら、プロとしての野鳥写真はどうあるべきかを常に考えてきました。アマチュアではなく職業として撮る野鳥写真は、社会のニーズに応えられるものでなければ続けていけません。しかし、それだけではなく、野鳥を通して自然のしくみを知ることの意義や楽しさを伝えることがとても重要だと感じています。

 そのために、今は、私は図鑑を基本として野鳥や自然を知るためのあらゆるタイプの書籍に使っていただくことを想定して撮影しています。さらに、書籍の企画まで考えながら撮ることも多いです。どういう本で写真をどう使えば鳥に関心を持ってもらえるか、自然の目を向けてもらえるか、そういうことに腐心しているわけです。叙情派路線だけでなく幅広い作品性が必要だと思います。そして、こういう考え方を反映させた本を作ることが私の「野鳥写真家」としての社会への貢献だと思っており、最も重要視している仕事です。その成果が『鳥の名前』(東京書籍、2003年)や『庭で楽しむ野鳥の本』(山と溪谷社、2007年)といった代表著書です。このどちらもお陰さまで好評いただき増刷を重ねており、特に『庭で楽しむ野鳥の本』は現在5刷りとなっています。先月出したばかりの『北海道野鳥観察地ガイド』(北海道新聞社、2010年)も、よくお読みいただければ私の考え方を感じていたたげるのではないかと思います。

 今日は、私だけでなく野鳥写真を職業としている人間が何を考え、どういう方向へ向かっていこうとしているのかお伝えできればと思っていましたが、時間が足りなくて、この業界が「どういう方向へ」という部分についてまではお話できなくてすみません。デジタル化がもたらした変化についてなどもお話したかったのですが、それはまたいつか機会がありましたら……。

 本日は、ご静聴ありがとうございました。


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2010年7月31日、たきかわ環境フォーラム「エコカフェ」(滝川市森のかがく活動センター)での話題提供から。(C)Koichi Oh-hashi, All rights reserved.
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プロフィール

梟(フクロウ)

Author:梟(フクロウ)
滋賀県在住
日本野鳥の会会員
バードリサーチ会員
野鳥観察=2007年から
MF=琵琶湖東部の山野湖沼
稀に全国各地へ遠征

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